梅毒はこんな病気
古くから性感染症として知られていますが、近年日本国内において急激に報告数が増えており、関心が高まっている感染症です。梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という病原体が粘膜や皮膚の小さな傷から体内に入り込み、血流に乗って全身に広がってさまざまな症状を現します。多くの場合は保菌者と性交渉をすることにより感染しますが、医療行為中、感染者に使った注射器などで誤って傷つけてしまう事故、母胎から胎盤を介した感染、薬物の回し打ちなども原因となります。
感染からの経過時間と症状により早期顕症梅毒(第1期、第2期)、晩期顕症梅毒(第3期、第4期)、無症候性梅毒(陽性だが症状はみられない梅毒)に分類されます。早期顕症梅毒の段階で発見されるものが多く、無症候性梅毒がそれに続きますが、晩期顕性梅毒は少数です。また、胎盤を介して感染する先天梅毒も少数例報告されます。国立感染症研究所感染症疫学センターの発表によると、ここ数年の間に報告数は急増しており、2012年には男性692例、女性183例、合計875例であったものが、2018年には男性4545例(6.6倍)、女性2897例(15.8倍)、合計7442例(8.5倍)に増加しています。男性に多い性感染症とされていますが、近年は女性の患者さんの増加が顕著であり、特に15~24歳の年齢層では女性のほうが多くなっています。このことは一般女性への急速な感染の拡大を示しており、性風俗に関わる特殊な感染症ではなくなってきていると認識するべきです。
梅毒の症状
先に述べた通り、梅毒は感染から経過した時間や症状によって分類されます。
【第1期梅毒】
感染後3週間ぐらいで、感染した粘膜や皮膚に初期硬結という痛みのない小さなしこりができ、何日かすると中心部に潰瘍ができます。この潰瘍を硬性下疳(こうせいげかん)といいます。その後感染部位の近くのリンパ節が腫れますが、痛むことはありません。陰茎や陰唇など性器に感染した場合、そけい部の複数のリンパ節がかなり大きく腫れることもありますが、これも触っても痛くありません感染梅毒。
男女に限らず口腔性交でも感染します。この場合、性器のほかに口唇、口腔粘膜、肛門周囲などに感染することもあります。男性同士の性行為は感染の危険性が高くなります。 梅毒感染は血液検査で判定しますが、症状が現れるこの時期にならないと陽性にならないので、検査の時期を間違えないことが重要です。
【第2期梅毒】
感染後3カ月ぐらいすると、血流に乗って全身に広がった梅毒トレポネーマにより、全身の皮膚に梅毒性バラ疹と呼ばれる淡く赤い発疹が多数現れます。性器や肛門周囲に扁平コンジローマという平らなしこりができたり、口腔粘膜に発疹ができたりすることもあります。多くの場合、何カ月かすると症状は消失しますが、繰り返し現れることもあり感染が治ったわけではありません。蕁麻疹(じんましん)やアレルギー性皮膚炎、他の感染症による皮膚症状と間違えることもあるので、梅毒の疑いがあるときには血液検査をして感染の有無を確認することが必要です感染梅毒。
図:梅毒性バラ疹が現れやすい部位
【晩期顕症梅毒】
感染後無治療で3年以上経過すると、皮膚、筋肉、骨、内臓にゴムのような腫れ物ができます。この病態を第3期梅毒といいます。さらに無治療で感染から10年程度経過すると、脊髄癆(せきずいろう)や進行麻痺といった神経疾患のほかに大動脈瘤などをきたし、第4期梅毒と診断されます。
【先天梅毒】
母胎が梅毒に感染していると胎盤を介して胎児に感染し、皮疹、肝臓・脾臓の腫脹(炎症が原因で腫れあがる症状)、骨軟骨炎などの症状が現れます。近年は年間10例程度の報告があります。
梅毒の治療法
治療にはペニシリンが有効で、早期顕症梅毒であれば4~8週間の内服治療となります。治療が終了しても血液検査値はすぐに低下しませんので、しばらく経過観察が必要です。
/uploads/",@me) /}